最高裁判所第一小法廷 昭和32年(あ)2511号 決定 1958年3月27日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人向江璋悦、同安西義明の上告趣意第一点は事実誤認、単なる訴訟法違反の主張であり(所論の自白調書が任意性を欠くと疑われる証跡は記録上何ら存在しない。)、同第二点は違憲をいうが、所論のように取調官が被告人を長時間にわたり深夜まで取調べたとか、弁護人の選任を妨げたとかいうような事実は、これを肯認するに足る証跡は記録上存在しないのであって、所論は前提を欠くものであり、同第三点は違憲をいうが、刑法一一五条は、同条の物件が犯人の所有に属する場合であっても、若しそれが差押を受け、物権を負担し又は賃貸し若しくは保険に付せられた場合において、これを焼燬することは、損害を他人に及ぼし又は及ぼすおそれのあるものであるから、そのような他人の利益の侵害となる行為を犯罪と認めてこれを処罰することとしたものであって、犯人の財産権の行使を制限することを内容とした規定でないことは明瞭であり、所論違憲の主張は前提を欠くものであって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
被告人本人の上告趣意は事実誤認、単なる訴訟法違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(所論自白に任意性の肯認できることは、前記弁護人向江璋悦、同安西義明の上告趣意につき判示したとおりである。)
よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫)